お寺の境内で、一階が四角形、二階が円形という独特なシルエットを持つ塔を見て、「この不思議な建物は一体なに?」「五重塔とはどう違うの?」と疑問に思ったことはありませんか?
その正体は「多宝塔(たほうとう)」と呼ばれる、日本で独自の発展を遂げた美しい仏塔です。一見ユニークなその形には、実は密教の世界観を表す重要なメッセージと、深い祈りの意味が隠されています。
この記事では、多宝塔の基礎知識から、その形に秘められた由来、知っておくと面白い仏教的な意味まで、多宝塔の不思議を解明する「5つの鍵」をわかりやすく解説します。読み終える頃には、旅先で多宝塔を見上げるのがきっと楽しみになるはずです。
多宝塔とは?独特な「二重の塔」の構造と特徴【鍵1】
寺院建築の中でもひときわ目を引く多宝塔は、その構造に大きな特徴があります。ここではまず、外観からわかる多宝塔の基本的な仕組みについて解説します。
一階が四角、二階が丸い?不思議な形状の秘密
多宝塔を正面から見ると、下層(一階部分)は四角形をしており、その上に丸いドーム状の亀腹(かめばら)と呼ばれる白い部分があり、さらにその上に四角い屋根が乗っているように見えます。このように方形と円形を組み合わせた独特のデザインは、ほかの仏塔には見られない多宝塔ならではの特徴です。
多くの人が「二階建て」の塔だと認識していますが、実は内部は吹き抜けになっていることが多く、構造的には一階建ての建物として扱われることもあります。下の四角い部分と上の丸い部分がつながり、天に向かって伸びるような優美な曲線を描いているのが魅力です。
屋根の形と「裳階(もこし)」の役割について
多宝塔の外観を決定づけているもう一つの要素が、屋根の重なり方です。一見すると二つの屋根があるため二重塔のように見えますが、下の屋根は正確には「裳階(もこし)」と呼ばれる庇(ひさし)のような装飾構造です。
この裳階があることで、建物全体のバランスが安定し、雨風から建物を守る役割も果たしています。上の屋根は方形(宝形造)になっており、頂点には相輪と呼ばれる金属製の装飾が輝いています。四角い裳階、丸い亀腹、そして四角い屋根という幾何学的な積み重ねが、多宝塔の美しいプロポーションを生み出しているのです。
多宝塔の由来と歴史|日本独自の進化を遂げた背景【鍵2】
なぜこのような独特な形の塔が生まれたのでしょうか。そのルーツを辿ると、仏教の経典と日本の歴史上の重要人物に行き着きます。
法華経に登場する「多宝如来」が起源
多宝塔という名前は、「法華経」というお経の中に登場する「多宝如来」に由来します。経典の「見宝塔品(けんほうとうほん)」という章において、釈迦が説法をしている最中に、突如として大地から巨大な塔が湧き出し、空中に浮かんだといわれています。
その塔の中にいたのが多宝如来であり、彼は釈迦の教えが真実であることを証明するために現れました。そして塔の中で釈迦と並んで座ったという伝承があります。この劇的なシーンを具現化しようとしたのが多宝塔の始まりであり、まさに仏教の奇跡を形にした建築物といえます。
空海(弘法大師)と密教による多宝塔の定着
現在私たちが日本で見かける多宝塔の形式は、平安時代初期に空海(弘法大師)によって確立されたといわれています。空海は唐から持ち帰った密教の教えを広めるにあたり、その深遠な世界観を視覚的に伝えるためのシンボルとして多宝塔を重視しました。
当初の構想や初期の塔は失われてしまいましたが、空海が高野山で計画した「大塔」が、日本における多宝塔の原型となり、その後全国の密教寺院へと広まっていきました。つまり多宝塔は、大陸の文化を取り入れつつも日本人の感性によって完成された、日本独自の仏教建築なのです。
多宝塔に込められた仏教的な意味と世界観【鍵3】
多宝塔は単なる建物ではなく、それ自体が巨大な仏教の教えを表す装置でもあります。ここでは塔に込められた宗教的な意味合いを紐解きます。
塔そのものが「曼荼羅(マンダラ)」を表している
密教では、宇宙の真理や悟りの境地を図示した「曼荼羅」が重視されますが、多宝塔はいわば「立体曼荼羅」としての機能を果たしています。四角い下層は地上の世界や慈悲を表し、円形の上層は天上の世界や悟りの知恵を表していると解釈されることがあります。
建物全体で仏の世界そのものを表現しており、参拝者は塔を見上げることで、言葉では説明しきれない仏教の真理を感覚的に受け取ることができるように設計されています。
中心に祀られる仏像と大日如来との関係
多宝塔の内部には、通常、大日如来や五智如来といった密教の中心となる仏像が安置されています。大日如来は宇宙の根本仏とされ、塔の中心に位置することで、この塔が宇宙の中心であることを象徴しています。
また、塔を支える心柱(しんばしら)そのものが大日如来の背骨や象徴とみなされることもあります。塔の内部の柱や壁には極彩色の絵画が描かれていることも多く、扉を開いた内部空間は、まさに極楽浄土や悟りの世界が広がっているのです。
多宝塔と五重塔・三重塔の違いとは?見分け方のポイント【鍵4】
お寺には多宝塔以外にも五重塔や三重塔がありますが、これらは具体的に何が違うのでしょうか。見分けるためのポイントを整理します。
構造上の決定的な違い:層の数と形状
最もわかりやすい違いは、そのシルエットです。五重塔や三重塔は、基本的にすべての層が四角形(方形)で統一されており、それが規則正しく上に積み重なっています。これに対して多宝塔は、前述の通り「下の階が四角、上の階が丸」という変化に富んだ形状をしています。
遠くから見て、屋根の下に白いドーム状の膨らみ(亀腹)が見えたら、それは間違いなく多宝塔です。また、層の数も多宝塔は基本的に二層に見える構造であるのに対し、三重塔や五重塔はその名の通り三層、五層と高層建築になっています。
役割の違い:釈迦の遺骨か、密教の世界観か
本来、仏塔(ストゥーパ)は釈迦の遺骨である仏舎利を納めるためのお墓としての役割が起源です。五重塔や三重塔はこの伝統的な意味合いを強く残しており、釈迦の遺徳を偲ぶシンボルとして建てられることが一般的です。
一方、多宝塔も仏塔の一種ではありますが、密教においては「大日如来の住む宮殿」や「法界(真理の世界)」そのものを表すという意味合いが強く込められています。つまり、五重塔が「崇拝の対象としての記念碑」的な性格を持つのに対し、多宝塔は「教えの世界観を体感するための空間」としての性格がより強調されているといえます。
一度は見たい!日本を代表する国宝級の多宝塔【鍵5】
最後に、実際に多宝塔の美しさに触れるために訪れたい、日本を代表する名塔を3つ紹介します。どれも国宝に指定されている貴重な建築です。
石山寺多宝塔(滋賀県):日本最古の優美な姿
滋賀県大津市にある石山寺の多宝塔は、源頼朝の寄進によって建てられたと伝えられており、現存する多宝塔の中で最も古いものです。鎌倉時代の建築様式を色濃く残しており、均整の取れたプロポーションは「日本で最も美しい多宝塔」と称賛されています。歴史の重みを感じさせる檜皮葺(ひわだぶき)の屋根と、周囲の自然との調和が見どころです。
金剛峯寺(和歌山県):高野山のシンボル大塔
和歌山県高野山にある「根本大塔(こんぽんだいとう)」は、空海が構想した多宝塔の原点ともいえる存在です。高さ約48.5メートルという圧倒的なスケールを誇り、朱塗りの鮮やかな外観が訪れる人々を魅了します。内部には立体曼荼羅の世界が広がっており、密教の聖地としてのエネルギーを肌で感じることができる場所です。
根来寺大塔(和歌山県):日本最大の木造多宝塔
和歌山県岩出市の根来寺(ねごろじ)にある大塔は、木造の多宝塔として日本最大の大きさを誇ります。国宝に指定されており、戦国時代の戦火をくぐり抜けた歴史の証人でもあります。塔の表面には当時の火縄銃の弾痕が残っている箇所もあり、建築美だけでなく、激動の歴史ロマンを感じることができる貴重な遺構です。
まとめ:多宝塔の意味を知れば、寺院巡りがもっと深くなる
多宝塔は、単に変わった形をした古い建物ではありません。その独特なフォルムには、古代の人々が抱いた「真理への憧れ」や「宇宙観」が凝縮されています。四角と丸の組み合わせに込められた意味や、歴史的な背景を知ることで、これまで何気なく見ていた景色がまったく違ったものに見えてくるはずです。ぜひ次のお寺巡りでは、多宝塔の前で足を止め、その奥深い世界を感じ取ってみてください。
案内人より一言

歴史的背景を知ると、お寺巡りがより充実したものになります。








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